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プチセレブ

このところずっとイマイチよく分からないのは、「セレブ」という言葉である。語源になったセレブリティーというのはもともと「名士」といった意味なんだろうと思うのだけど、海外セレブと言って指しているのは大抵芸能人である。とすれば、「お金持ち」ということなのだろうか。テレビでは「セレブな奥様」とか「セレブなランチ」とか、とにかくもう「セレブ」の大安売り。結局「セレブ」は「リッチ気分の」ぐらいに私たち庶民にまでぐっと近づいてきてくれたわけだ。まあ、有難いといえば有難い。

で、「セレブ」気分である。私がちょっとばかりセレブ気分に浸るのは、実はガソリンスタンドだったりする。車を乗り入れる。・・と、店員たちがたーっと走ってきてくれる。ドアを開けてガソリンの種類を尋ねてくれ、全ての窓ガラスを拭き、車内のゴミの心配までしてくれる。ましてや洗車をお願いすると「後はよろしくね」とにっこり笑って車を後にし、休憩所で待つだけでよい。お手軽にリッチ気分が味わえる。

私には、この「セレブ気分」を満たしてもらえるお気に入りのガソリンスタンドがあった。いつも店員さんが明るくて元気だし、休憩所が明るく、置いてある自動販売機には夏冬問わず暖かい飲み物が用意されている(夏になると冷たいものしか置いてないことが多くて、冷え性の私には不満)。何より雑誌の品揃えが豊富。私たちの年代向けのファッション雑誌まである。カフェラテを飲みつつ、綺麗な雑誌に目を通し、「今度はこういう洋服を買おうかしらン」などと思うのは結構楽しい。それは、実際に買いに行くかどうかとは別問題である。

本当はもっと家に近く、便利なところにもガソリンスタンドはあるのだ。でも、1度きりでこりごりしてしまった。休憩所の灰皿が吸殻で山盛りになったままで、他に吸っているお客もいないのに体中がタバコの臭いだらけになるのだ。そして、置いてある雑誌ときたら! なんだか極度にHな漫画雑誌のものしかない。自分が読めないのは仕方がないが、目の前でそれを開かれるとどこに目を置いていいやら分からなくなってしまう。リッチ気分とは対極である。

そんなこんなでお気に入りのガソリンスタンドに通っていた私だったが、ほんの数ヶ月前、なじみの店員さんにチラシを渡された。ガソリンスタンドが改装のためにしばらくお休みするというのである。私は嫌な予感がした。そして2ヵ月後。嫌な予感の通り、再オープンされたそのガソリンスタンドはセルフに生まれ変わっていた。

自分でガソリンを入れるのはオランダ暮らしで慣れているし、洗車だって、若い頃は洗車場に行ってはワックスがけまで自分でやっていた。そんなに苦じゃない。困るわけじゃない。でも、でも、私のささやかな楽しみはふっとんでしまった。

もともとセレブ気分なんてものは、泡のように儚いものなのかもしれない。セルフになったくせにガソリンの値段が安くなっていないことが気になって仕方がない私は、やっぱりセレブにはなりきれないようだった。

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