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ロブスターの彼

うちの娘は早く寝るのであまりテレビを見ないのだが、どうも「お金持ちの生活紹介」的なものが好きらしい。豪華なお住まいとか、信じられないお金の使い方とか、そういったものを見せてくれる、あれである。

だからといって、娘は別に「自分がそうしたい」というわけではないようだ。「お金持ち」の生活は素っ頓狂だ。信じられないくらい贅をつくした調度品や、入りきらないドレスたちは現実離れしていて、あんまり実感がわかない。そんなものを見せられてももはや「うらやましい」という気にすらならず、ただただ「ほー」とか、「へー」とか言うばかりなのだ。

学生時代の同級生にも根っからのお坊ちゃまがいた。本人はそう言われたくないのかもしれないけれど、身にまとった雰囲気は隠せない。実際、彼の立派な実家を訪ねた友人によると、お手伝いさんが「坊ちゃま」と呼んでいたらしい。

車といえば親のお古を譲ってもらうぐらいがせいぜいのところ、彼はぴっかぴかの新車を買ってもらっていた。なのに、運転が下手でしょっちゅうぶつけるので、「俺が代わりに乗ってやるのに!」とみんなからブーイングの嵐だった。もちろん、彼はそんなこと気にしていない。そして、快くみんなに貸してくれる。

住んでいたのも下宿やアパートなんかではない。「税金対策だから」と親が買ってくれたマンションだ。あんまり立派なところなので、友人たちも最初はおそるおそる訪ねたらしい。まあ、間もなくみんなのたまり場になったのだったが。

それというのも彼が部屋によんでくれるからだ。彼のお母さんが時折食材を送ってくるのだが、それが半端な量ではない。「皆さんにも食べていただきなさい」ということなんだろうが、高級牛肉が何キロも届いたりする。当然、人を何人も呼び、すき焼きパーティーをやることになる。私にも電話をくれたらしいが、あいにく留守で食べ損ねてしまった。あの当時の食生活を思えば、すっごくもったいないことをしたものだ。

またあるとき送られてきたのは活きたロブスターだった。おがくずの中で仮死状態にされたロブスターは、きっと刺身でもおいしく食べることが出来ただろう。でも、彼はそうしなかった。「殺生は嫌だから」という理由で、ロブスターをバスルームの浴槽の中に放したのである! かわいそうに、沢山のロブスターたちは、「おいしい」と言ってもらえないまま数日のうちにお風呂の中で息絶えた。以来、我が家では彼を「ロブスターの彼」と呼ぶ。

「ロブスターの彼」は今頃どうしているんだろう。相変わらずおっとりと皆の話にうなずいているのだろうか。彼とはその後なんの縁もないのだけれど、レストランのメニューでロブスターを見かけるたび、私の中の「お金持ち代表」だった彼を思い出すのである。

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コメント

我が家では活車えびを頂いたことがあります。
もちろんしっかり美味しく頂きましたが、幼い娘は動くのにびっくりし、そうしてかまゆでの刑にするのは可愛そうという訴えもありました。
それでも刑は執行され、真っ赤に茹で上がって動かなくなった海老は死体ではなく、食物だと娘の認識は変化していました(笑)。
えびはおがくずの中で生きているのが美味しい。という庶民には不似合いな贅沢を覚えてしまいましたが、あれ以来そういう海老を口にしていない筈ですy(笑)。 

まだ暑そうですね。北の国より残暑お見舞い申し上げます。

投稿: | 2005/08/20 02:19

惑さん、おはようございます。
今思えばそれは伊勢えびだったのかもしれません。が、貧乏学生だった私たちは伊勢えびもロブスターも車えびもごっちゃでした(笑)。

私もその後活車えびをいただいたことがあります。半分はお刺身に、あとの半分はエビフライにして食べました。もともと私の好物は海老とメロン(なんか、王道ですね)だったので、卒倒しそうなほど幸せでした。その幸せは一度しか経験できていませんが。

海老が大好きだったからこそ、彼のことが忘れられないのかもしれません。あ、いえ、忘れられないのは、そういう意味じゃないですよ(笑)。

投稿: Kako | 2005/08/20 09:00

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