されど漫画
余所のお宅にお邪魔するとき、あんまり見つめると失礼だなあと思いつつつい眺めてしまうのは、CD棚と本棚じゃないだろうか。なんとなくその人となりが現れているようで興味深い。それと同じ事なのかどうか、勤めていた時の先輩に「愛読している漫画は?」と人に尋ねる男性がいた。私が「うーん、パタリロとぉ・・」と答えたところまでは「なーるほどね」と笑いながらきいていたのだが、「浦沢直樹のマスターキートン」と続けたら「へ? そ、そうなの? ふーん、そうなんだあ」と何度も頷いていた。なんでだろう?
浦沢直樹という漫画家が世に知られたのは「YAWARA!」のヒットからだった。あの柔道の谷亮子選手が「柔ちゃん」と呼ばれる原因になってもいる。その後もスポ根ものを描いたりしていたけど、「マスターキートン」あたりで作風が変わった。
「マスターキートン」の主人公キートンは考古学者でいながら保険調査員(オプ)。仕事にからんで様々なことに巻き込まれる。舞台のほとんどはヨーロッパだ。複雑な政治・文化的背景が関係してくるので、緻密な取材無しにはかけない内容である。
フォークランド紛争、IRAといったイギリスの事情。ドイツへの移民の問題。東欧の民主化後の話・・。恥ずかしいことに私はちっとも分かっていなかったことだらけだったので、随分勉強させてもらった。私は高村薫氏の小説が好きなのだけれど、IRAのテロリストを主人公にした「リヴィエラを撃て」なんて、「マスターキートン」を読んでなかったらきちんとは理解出来なかったと思う。また、ここから得た知識は、実際にヨーロッパの片隅で生活したときには随分と役に立った。
「電車の中で大人が堂々と漫画なんか読んでるのは日本人ぐらいだ」と、嘆かわしいことのように言う人がいる。でも、それはアメリカのコミックが娯楽の対象でしかないからだと思う。日本の場合、「マスターキートン」のように大人にとって読み応えのあるものは少なくない。活字だけが並んだものの中には、いくら売れていたって「なんじゃこりゃ」な展開をするものだってあるわけで、どちらが偉いだなんてことは絶対言えないのだ。
今でも私は、なんだか煮詰まった時には「マスターキートン」を手に取る。多分、そういう使い方をするのは私だけなんだろうと思うのだけど、この中には私の琴線に触れる言葉がいくつか出てくるからだ。「人間はどんなところでも学ぶことが出来る」「(自分の居場所を探してばかりいたけれど)それら全てを歩いてきたから、今の自分がある」自分を元気にしてくれる言葉に出会えるのは、幸せなことだと思う。
そんなことを改めて思い起こさせてくれたくれたのはtsuyorinさんのこの記事。浦沢直樹氏のサスペンス「MONSTER」がハリウッドで映画化されるのだとか。複雑な内容なのでどう映画に仕上げるのか脚本家の腕にかかっているが、旧東ドイツでの出来事が主題だから、その点を掘り下げれば骨太な作品になると思う。アメリカから見た旧東欧がどう描かれるか、楽しみでもあり、ちょっと不安でもあるのだった。
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受信: 2005/07/23 13:11

コメント
ふだん「kakoの手文庫」を読んでいる人は
「うーん、パタリロとぉ・・」と答えたところまで「へ? そ、そうなの?」と驚き、「浦沢直樹のマスターキートン」と続けられて「ふーん、なるほどねぇ」と頷かれるのではないでしょうか。ちなみに我が家の娘は「美味しんぼ」を愛読、ほぼ内容を暗記しているので、彼女自身が料理を作ったのをみたことはありませんが、山岡君なみに食材や調理法についてのうんちくを語れます(笑)。
投稿 惑 | 2005/04/16 21:48
惑さん、こんばんは。
パタリロ、意外ですか? お風呂の友です。私が半身浴をしようとすると、娘が持ってきてくれます(笑)
「美味しんぼ」は確かにうんちくを語れますねえ。漫画から学べる事って結構あるんですよね。
投稿 Kako | 2005/04/16 23:33