過ぎていく時間
ガソリンスタンドで洗車が終わるのを待っていたら、男性が小さなお子さんを抱いて建物に入ってきた。1歳前後だろうか。目のくりくりとした可愛い(多分)男の子だった。それからほどなくして、入り口の自動ドアが開いた。するとお子さんが「あー」と声を挙げたので思わずその声の方を見ると、入ってきた女性を満面の笑みで見つめている。どうもお母さんらしい。その「お母さん大好き!」という気持ちがあふれた笑顔があまりにも可愛らしかったので、私はしばらく見とれてしまった。
私の娘は8歳になるが、年の割にまだ幼いところがある。「もっとしっかりして欲しい」と思いながらも、学校帰りに私を見つけてにこにこしながら駆け寄ってくるのをみるとやっぱりうれしい。「ま、まだこのままでもいいかな」と大目にみたくなる。そんな娘だけれど、やはり今日出会ったお子さんにはどうしたって敵わないのだと気付いてしまった。あれは、相手にこう思われたいとか、こういう気持ちを伝えようとか、そんなものが何にもない、純粋無垢な笑顔だ。
お子さんの笑顔に迎えられたお母さんの方はというと別にそれが特別のことではないようで、ただ淡々とお子さんのそばに近寄っていくだけだった。多分、そのお母さんは気付いていないのだ。そんな風に子供がただまっすぐに自分の方を見てくれるのが、永遠には続かないことを。
私もまだ子育て半ばなのであまり偉そうな事を言える立場ではないが、子供がもっと小さかった時、その大変さが永遠に続くような気持ちになっていたことを思い出す。娘が私の後追いばかりでトイレにまで付いてきたり、世話に追われて服装も髪型も何一つ構うことが出来ず、友人とゆっくり話をすることもままならなかったあの頃。娘はかなり育てやすい子供だったのでそんなに大変ではなかったが、それでも初めての子育ては緊張感ばかりが先に立って楽しむ余裕がなかった。あの時期独特の無垢な笑顔を、もっと慈しむことが出来たならよかったのにと残念だ。
子供はどんどん成長してしまう。娘もこのところ急激に背が伸び始めている。私の膝の上に喜んで乗ってくれるのも、一緒にお風呂に入りたがるのも、もうそんなには長く続かないかもしれない。もちろん、そうなってくれなければ困るのだけれど、そんな一つ一つの場面が、いつか大切な一瞬になっていくということなのだろうか。
こうやって時は淡々と気付かぬ間に過ぎていってしまうものなのかもしれない。可愛らしいお子さんを見ながら、なんだか少し切ない気持ちになった私なのだった。
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コメント
仕事を終えて家に帰ってきたとき、僕の姿を見つけた娘の顔がパッと明るくなって、全速力(遅いですが)で駆けつけてくるのをはじめて見たとき、
「あぁ、しあわせっていうのは、つまりこういうことを言うのか」
と、実感したこと、そして、それと同時に、
「こんな感覚を味わえるのも、そう長くはないのだろうな」
という漠然とした予感に自分でもちょっと驚くくらいがっかりしたことを思い出しました。
kakoさんがお書きになる文章って、記憶を引き出す鍵のような不思議な力を持っていますよね。
これって、他ではちょっと味わえない、とても素敵な特徴だと思います。
投稿: kata | 2005/02/03 12:45
kataさん、こんにちは。
blogの何がうれしいって、こんな勿体ない程のコメントを頂けることがある点ですね。
もちろん、そのためだけに記事を書いているわけではありませんが、共感して頂いたり、自分の中の何かを思い出して頂けるのは本当にうれしいです。
どうもありがとうございました。
投稿: Kako | 2005/02/03 17:12
kakoさん、こんばんは。
ちょうど5年間通っていた育児サークルも、今日が最後ということで私も色々と子育てを述懐していたところでした。
>子供がもっと小さかった時、その大変さが永遠に続くような気持ちになっていたことを思い出す。
これは、本当に痛いほどよく分かります。通り過ぎてみれば、ほんの短い間のことだったのでしょうけれども、当事者にとっては出口の見えないトンネルの中にいるような気持ちですよね。
子供がまだ自分を頼ってくれている今この時を、もっともっと大切に過ごしたいな、と考えさせられました。
投稿: あずさ | 2005/02/04 00:34
あずささん、お早うございます。
子育てのまっただ中にいるときは、その幸せに気付いていないんですよね。とにかく生活に追われていて。
まあ、私も今は物理的に随分手が離れたとはいえ、まだまだ色々な面でフォローが必要だったり、やきもきさせられて小言ばかりで、ちっとも「今を大事にする」ということが出来ていないんですが。
でも、そんな大騒ぎが済んで夜すやすや寝ている娘を見ていると、「こんな風に過ごせるのも今だけなのよねえ」と思って、反省の毎日です。
投稿: Kako | 2005/02/04 08:03