« 幸福の魔法 その3 | トップページ | インタビューの意味 »

幸福の魔法 その4

電車からはき出される人々の中に佐智子も居た。呆然とホームを歩きながら、腕で抱えた紙袋をぎゅっと抱きしめる。

カラオケボックスの一室で、頼子は謝った佐智子に笑ってみせたのだった。
「そんな、責任かんじることないわよ」
佐智子が顔を上げると、頼子はおかしくてたまらぬというように微笑んでいた。


「どうせ時間の問題だったのよ。私たち」
佐智子はまじまじと頼子を見つめた。それは本心なんだろうか。
「今日、あいつは一緒に来なかったのね」
「すみません。あ、あのよろしくと・・」
「肝心なところで逃げちゃうの。子供っぽいのよね。まあ、そこが可愛いと思ったこともあったんだけど」
頼子がため息をつき、その姿が夫婦二人で過ごしてきた時間の長さを感じさせた。
「もちろん、子供達にとってあの人は父親だし、あの子達には悪いことをしたと思ってる。でも、それは、私たち二人のせいね。努力が足りなかったってこと」
そう言うと、頼子は紙袋を机の上にのせた。
「これ、今日あの人に渡そうと思って持ってきたの。忘れ物。渡してくれます?」
佐智子は慌てた。
「う、受け取れません。課長は、何も要らないと言っていました」
「・・・ええと、これは私たちには必要ないんだけど」
「いえ、でも、何もかも、全て奥様とお子さんにって」
かたくなに佐智子が紙袋を頼子に寄せた。
「んー。困ったわね。これは・・・」
頼子は少し迷っていたが言いにくそうに言った。
「腹巻きなのよ。あの人愛用の」
「えっ?」
「冷えるとすぐお腹にきちゃうの」

それが今佐智子が抱えて歩いている紙袋だった。そうして、頼子は別れ際、佐智子に深々と頭を下げたのだ。
「渡辺を、よろしくお願いします」
あれは妻としてよりも、母の愛のようだった。その姿を思い出し、佐智子は帰る途中のコンビニで、紙袋を袋ごとゴミ箱へ投げ入れた。

マンションに戻ると、部屋は朝のまま何一つ変わっていなかった。小さな机の上に、カップヌードルの空箱が二つ、置いてあった他は。
「お帰り」
間延びした声がベッドから聞こえた。
「仕事、探しに行かなかったの?」
声に自然に険がこもる。それを敏感に感じてか、男が身体を起こした。
「毎日出かけていってどうなるってものでもないから」
「夕飯は? 食べたの?」
「まだ。何か作ってくれないかなあ。お腹が空いて死にそうだ」
冷蔵庫には肉も野菜も入っている。そういえば、この人は、私が作った料理をいつもおいしいおいしいと食べてくれて、
「やっぱり、女は家庭的じゃないとなあ」
と言っていたのだ。
「なんにも、しないで、ただ、一日、ここに居たの?」
「な、なんだよ。いきなり」
「ねえ、面倒なことまかせて申し訳なかったとか、疲れたでしょうとか、ないの?」
男の顔がみるみる不機嫌になっていく。
「ね、どうなの?」
「うるさい!」
帰ってきた言葉はそれだけだった。それきり男は寝返りを打って向こうをむいてしまった。

佐智子は呆然として部屋を見回す。朝、光にあふれていたこの部屋は、薄いグレーの絵の具を塗ったようだった。そして出窓にはぽつんとカボチャが一つ。去年のハロウインの時、二人で飾りに買ったものだ。

カボチャはいつまでも馬車ではいられない。佐智子は魔法が解けてしまったことを感じていた。

|

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/24183/1201262

この記事へのトラックバック一覧です: 幸福の魔法 その4:

コメント

kakoさん、おはようございます^^)
私も実はネットから少し遠ざかっていたのです。
でも、ブログの方はムリして時々更新してました。
何か更新してないと、誰も人が来てくれなくなるんじゃないかっていう恐れからですね。(苦笑)
こんな私はネット中毒なのかも知れません。

「幸福の魔法」
kakoさんの書かれた小説ですよね?
今までも色々書かれてるんですか?
私も小説を書きたいって子供のころ思ってたのだけど、すっかりいい大人になった今、あまりのボキャブラリーの少なさにとてもひとつの作品をフィクションで作り上げるのは無理だな・・・なんてあきらめてます。
幸福って必死で追い求めてるときが一番幸せってことなのかしら?
きっと他力本願では幸せはつかめないんでしょうね。
読んだあと、色々考えさせてくれる素敵な小説でした。
ありがとう^^)

投稿 こねこ | 2004/08/19 08:04

こねこ さま
拙い文章に感想をお寄せ頂き、ありがとうございました。
小説というか・・小説もどきです。
最近はこういうことをほとんどしていなかったのですが、昔書いたものをリライトしてみました。もともとはシナリオ原稿だったんですけれど・・。
見て下さる方からなんのリアクションもなかったので、「やっぱりフィクションは駄目ってことなのね(しくしく)」と思っていました。こうして感想を頂けて、本当にうれしいです。ありがとうございました。

投稿 Kako | 2004/08/19 20:53

ブログってそこのところ、ちょっと物足らなく感じることってないですか?
こんな占いみつけました~とか、昨日のドラマは・・・とかいう話題にはわりとみんな乗ってくれるのだけど、自分が本当に聞いてほしくてココロをこめて書いた文章には何の反応もなかったりして^^;
でも、私もめげずにいろんな事発信していきたいと思います。
kakoさんも、ぜひまたこんな企画やってみて下さいね!

投稿 こねこ | 2004/08/19 23:15

そうですね。まあ、でも、物足りないっていうよりも、blogってそういう性質のものなのかなあと思ったりもします。

アメリカで始まった時には「自分の意見の発信」という面が強かったと聞きますが、日本の場合は「お友達づくり」が主で、みんなでわいわい楽しめるものに人気が集中してしまうのかもしれませんね。

投稿 Kako | 2004/08/21 00:32

コメントを書く